シンポジウム1

観光行動を読む

- 心理学で考える観光まちづくり -

【大講義室 10:0012:00

企画者

 佐山公一 (小樽商科大学)

話題提供者

 岡本卓也 (信州大学) 

 辻義人  (小樽商科大学) 

 林幸史  (大阪国際大学)

 深田秀実 (小樽商科大学)

司会者

 佐山公一 (小樽商科大学) 

指定討論者

 佐山公一 (小樽商科大学)

 

■ 企画主旨 ■

 

  人はなぜ旅行するのであろうか?これまで,旅行行動はマーケティングやツーリズムの分野で研究がおこなわれてきた。そこでは,旅行と旅行者との関係を,製品と消費者との関係になぞらえ,旅行行動を説明してきている。

 居住地での普段の日常的な行動に比べれば,旅行者が観光地でとることのできる行動は限られている。それだけに,心理学研究者にとって旅行行動は扱いやすいテーマと言える。また,心理学者にとって,旅行行動は未開拓の分野であるので,自由な発想で様々な研究方法を使った研究が許容される(佐々木,2007)。本シンポジウムでは,心理学者が旅行行動を今後どのように研究していけばよいか,話題提供者の方々の研究とその成果を題材にしながら,考えてみたい。

 また,本シンポジウムでは,旅行者の立場に加え,観光行政や観光業に携わる観光事業者や観光地の住民の立場から,旅行者の観光行動や旅行者と観光事業者・住民とのコミュニケーションを考えてみる。さらに,観光事業者や住民が観光地の魅力をどのように伝えれば,潜在的な旅行者が実際に観光地を訪れるようになったり,観光地の中をくまなくまわって観光地に長い時間滞在するようになったりするかを心理学的な観点から議論してみることにしたい。

(文献 佐々木[2007]. 観光旅行の心理学. 北大路書房)

 

  ■ 話題提供者の発表主旨 ■

 

 ○ 岡本卓也 (信州大学)

 観光の事前情報の収集は,訪問先の意思決定にどのように関与するか?

 自然景観を観光資源とする安曇野(長野)の場合

 

 【要旨】

   近年,観光に関する心理学的研究において,観光動機の構造や,観光動機と訪問先の関係に関する研究が蓄積されてきつつある。しかし従来の研究は,訪問先として選ばれやすい場所の性質などを明らかにするにとどまり,訪問先を決定するまでの意思決定のプロセスについては十分に検討されてこなかった。また,近年,インターネット技術の向上に伴い情報の発信が簡便になり,個人レベルでの情報の発信も多くなされている。そのため,観光旅行者がプランを立てる際,従来のようにテレビや雑誌などのマスメディアの利用だけでなく,FaceBookTwitterなどを元にしたパーソナルネットワークコミュニケーションによる情報の活用が活発になっている。そのことに加え,近年ではSNSの普及などにより,旅行者は情報を収集するだけではなく,同時に発信者にもなっている。

  本報告では,このような実情を踏まえ,安曇野市・松本市への観光旅行者を対象に行った調査を元に意思決定のプロセスについて検討し,観光動機や旅行先で重視すること等との関連についての調査結果を報告する。また,事前の情報収集,旅行先での経験,情報の発信という一連の流れのパターンについても言及したい。

○ 辻 義人  (小樽商科大学)
ウェブを用いた地域情報の発信が潜在的な旅行者にもたらす心理的効果とは?
Facebookコミュニティ『おたるくらし』に関する国際比較を通して

【要旨】
 Facebookコミュニティ『おたるくらし』では,観光地である小樽について,多様な観点に基づく情報発信を行っている。現在,日本語版と中国語版(簡体字)が展開されており,いずれも高い評価が得られている。本報告では,Web上での地域情報の発信に関して,認知心理学,消費者心理学,観光心理学,これらの観点に基づく検討事例を取り上げる。
 また,「おたるくらし」読者を対象とした国際アンケート調査の結果,国内においては,小樽に居住・訪問経験のある中年層(4575歳)の読者が多かった。これは,経済的余裕が生じる年代層であり,自らと関連する土地について振り返るきっかけとなっていることが伺える。その一方,国外(台湾)においては,壮年層(2534歳)の読者が多かった。この理由として,海外旅行に対する憧れが反映されていることが伺える。このように,Webを用いた観光地情報の発信により,国内リピーター観光客,また,海外の新規観光客の増加などの効果が期待される。

○ 林 幸史  (大阪国際大学)

観光写真で読む観光地の魅力

歴史的建造物を観光資源とする奈良の観光写真調査から

 

【要旨】

1970年代以降,さまざまな観光地を対象として,観光地のイメージ・魅力次元やその規定因を明らかにしようとする研究が行われてきた。これらの研究では,観光地に関するさまざまな特性を質問紙上で提示し,それに対する評定を求めるという方法が一般的に用いられてきた。本報告では,その限界を指摘した上で,観光写真(観光地で旅行者が撮影した写真)を用いた調査によって,観光地の魅力を把握,測定できることを示したい。

本報告では奈良を訪れた旅行者が撮影した写真からどのような対象を通して観光地の魅力が評価されているのかを明らかにする。また個々の写真が具体的には何を被写体としているのかに着目することで社会で共有されている奈良のイメージ(集合的反応)や個人の興味や関心が何に向けられていたのか(個別的反応)も把握できることを示す。それらを踏まえて観光写真調査の可能性について言及したい。

○ 深田秀実 (小樽商科大学)

 GIS(移動経路情報)を用いた観光行動分析の可能性

運河の外へ旅行者を誘うにはどのようにしたらよいか?

 

【要旨】

 観光都市において,観光者の歩行行動に関する情報は,観光を中心とした街づくりや観光施策を立案する際に重要となる。観光者の行動分析手法としては,近年,全地球測位システム(GPS)を用いた調査分析が注目されている。そこで,本講演では,観光者の時間変化を伴う動的な観光行動分析を目的として,GIS(地理情報システム)を用いたカーネル密度推定による観光歩行行動の分析手法を紹介する。

 GPSを用いて取得した実際の観光歩行行動データを用いて,本手法の有用性の検証を行なったところ,経過時間に沿った動的な観光歩行行動を可視化することが可能で,観光行動の情報抽出に一定の有用性があることがわかった。今後は,GPSを用いた観光行動調査やGISを用いた行動分析といった観光分野への情報技術の導入や新たな分析方法の開発により,従来にない観光行動データの抽出が期待される。

小樽運河周辺の観光客の動き(カーネル密度推定法)
小樽運河周辺の観光客の動き(カーネル密度推定法)

 

共催:日本心理学会

後援:小樽商科大学(地(知)の拠点整備事業)