シンポジウム2

心理学は脳活動データとどのように向き合うべきだろうか?

大講義室15:30 17:00

企画者

 川端康弘 (北海道大学)

 佐山公一 (小樽商科大学)

話題提供者

 小川健二 (北海道大学)

 池上将永 (旭川医科大学)

司会者

 川端康弘 (北海道大学)

指定討論者

 川端康弘 (北海道大学)

 

■ 企画主旨 ■

 

  現代社会で「脳科学」という言葉はかなり頻繁に耳にするようになりましたが,心理学関連の学会でも,伝統的な心理学実験による報告と並んで脳活動データによる報告が次々と発表されるようになってきました。これまで行動実験を中心に構築されてきた心理学の知識系の中に,今後脳活動データの知見をどのように組み入れていくのかは差し迫った課題と言えるでしょうが,そのためには脳イメージング法などの最新の脳科学的方法論の利点と現時点での限界について十分に理解することが重要だと考えます。本シンポジウムでは,この方法論を駆使して活躍する研究者たちから脳活動計測の手法とそのデータをどのように自らの研究に生かしているのかを紹介していただき,この方法の有効性についてみなさんといっしょに考えてみたいと思います。たぶん認知機能の解明をめざす基礎的研究の領域から臨床場面等での応用研究まで,幅広い状況で多くの研究者が利用できる可能性を持っていると思うのですが,フロアのみなさんを交えてディスカッションを深め,考えてみたいと思います。

■ 話題提供者の発表主旨 ■

 

○ 小川健二 (北海道大学)

 

fMRIを使った運動学習の神経基盤の解明

 

【要旨】

 

 ヒトは様々な運動スキルを獲得することができるが,学習にともなう脳活動や構造の変化が明らかにされつつある。本講演では,感覚運動野や小脳のfMRI活動パターンの違いが,複数の運動スキルを表現する点を明らかにした我々の基礎研究を紹介する。さらに,ニューロフィードバックを使った学習支援への応用,特に行動練習のみでは難しいスキルの獲得を促進できる可能性についても議論したい。

 

 

○ 池上将永 (旭川医科大学)

 

NIRSを用いた注意欠如/多動性障害の前頭前野機能の計測

 

【要旨】

 

NIRSは近赤外線を用いた脳機能計測法であり,近年これを用いた認知神経科学的な研究が増加している。NIRSの長所として,計測する際の姿勢や体動に制限が少なく,計測が簡便なことが挙げられる。一方,短所として,大脳皮質表面の活動しか計測出来ない,活動部位の厳密な特定が難しいことが挙げられる。この話題提供では,NIRSの特性を生かせる研究場面の例として,薬物療法に対する注意欠如/多動性障害(ADHD)の前頭前野の反応を計測した我々の臨床研究を紹介する。研究結果からは,現在我が国で用いられている2種類の治療薬(アトモキセチン,メチルフェニデート)によって,持続的注意や反応抑制に関わる前頭前野の機能が改善されることが示唆されている。NIRSによる脳機能検査は,薬物療法に対する反応性を把握するための一助になると思われる。

 

協賛:日本認定心理士会北海道・東北支部

このシンポジウムは,日本認定心理士会北海道・東北支部第34回研修会を兼ねています。